白内障は何が問題なの?
犬や猫の白内障は大きく分けて1. 視覚障害と2. 合併症の2つの問題を起こします。 続きを読む
1つ目の視覚障害は、白内障が進むほど強くなります。白内障による視覚障害は、すりガラス越しに物を見る感じに近く、光覚は残りますが物の詳細を見分ける能力が低下した状態と言えます。白内障が進んだ状態では瞼を閉じた状態で部屋が明るいか暗いかしか分からない状態に近くなります。
両方の眼の白内障が進むと、おやつを見つけられない、物にぶつかる、呼ばれた人の方向がわからない、散歩へ行きたがらず運動量が減る、などの行動の変化が起こります。
2つ目の白内障による合併症は、水晶体起因性ぶどう膜炎(白内障による眼の中の炎症)、水晶体脱臼、網膜剥離、緑内障が代表的な合併症となります。網膜剥離や緑内障では失明(光覚も消失)を起こします。また、合併症が重度になると眼の痛みを生じる原因となります。
猫の白内障は犬に比べて極めて少ないですが、猫の白内障が進行して合併症を引き起こすと、悪性腫瘍に進行する危険性があります。悪性腫瘍に進行すると腫瘍が全身に転移を起こし死に至ります。
片眼の白内障が進行して、ほとんど見えていない状態になっても、もう片眼の視力が残っている場合はほとんど行動に変化を起こしません。しかし進行した白内障は合併症を引き起こすため検査と治療が必要です。
白内障は放っておいてよいの?
白内障は進行すると視覚障害と合併症の問題があるため、放っておいて良いことはありません。白内障手術を行わない場合や実施できない場合でも、合併症への対策が必要となります。 続きを読む
水晶体起因性ぶどう膜炎や水晶体脱臼、緑内障は痛みの原因となります。これらの合併症が出てから慌てるよりも、これらの合併症や明らかな症状が出ていない時期から必要な治療を行うことが合併症リスクを減らすことになります。
白内障による視覚障害や合併症は成熟白内障という水晶体全体が強く濁った時期から起こります。成熟白内障よりも手前の段階では瞳(瞳孔)の中に見える水晶体は灰色から青白く見えますが、成熟白内障になると明るい白色になります。瞳孔の中がはっきりと白く見える場合は、他に症状がなくても要注意です。
当院では白内障手術を希望されない場合や現実問題として手術の実施が困難な場合でも、必要かつ可能な範囲での合併症対策の治療法をご提案します。
また、白内障手術を希望される場合は、白内障が進行して合併症が出てからでは手術後の視覚維持率が下がりますし、手術を実施しても視覚回復が望めない状態になってしまうこともあります。
高齢の犬では進行した白内障から水晶体脱臼と緑内障を引き起こし、角膜穿孔と水晶体が飛び出てくることがあります。高齢のため全身麻酔による手術ができない場合が多く、自然に角膜の穴が塞がるまで痛みに耐えなくてはいけなくなります。
このため、白内障は放置していて良いことはありません。
年齢とともに眼が濁ってきた。これは白内障なの?
白内障でない可能性もあります。 続きを読む
犬や猫では加齢とともに水晶体の中心部(水晶体核といいます)の密度が高くなるため白っぽく見えるようになります。これを水晶体核硬化症といいます。人では水晶体核硬化症も視覚障害の原因となり得るため白内障手術の適応となりますが、犬や猫の水晶体核硬化症は日常生活に必要な視力への影響は軽微のことが多いため白内障手術を実施することはありません。
犬種にもよりますが8歳以下で瞳の中に見える水晶体に混濁がある場合は白内障の可能性が高くなります。若い子の白内障は遺伝性で急速に進行することが多いだけでなく、白内障による合併症も起こりやすいため要注意となります。
白内障と水晶体核硬化症を見分けるためには的確な検査と診断が必要です。当院へ白内障として紹介を頂いた症例でも検査により水晶体核硬化症と診断し、治療の必要が無いと判断することも少なくありません。
白内障は目薬やサプリメントで治せるの?
現在の科学技術では白内障を治す薬剤はありません。 続きを読む
白内障は水晶体のタンパクが混濁するもので、ある程度進行してしまうと水晶体のタンパクが不可逆的な(元には戻らない)変性を起こします。身近なものに例えると卵の白身は熱を加えるとタンパクが変性して白くなりますが、冷やしても元の透明な白身に戻らないことと同じです。
ピレノキシン(ライトクリーン、カリーユニ、カタリンなど)やアセチルカルノシン(Can-C、D-smailなど)の点眼は白内障の進行を抑制すると言われますが、その原理や効果は科学的に証明されていません。これらの点眼は信用に足るものではないため、当院では処方していません。
網膜変性によって生じる白内障においては強力な酸化物質が白内障の原因と確認されています。網膜変性では抗酸化物質のサプリメント服用により白内障の進行抑制が期待できます(確実ではありませんが)。しかし、遺伝性など他の原因による白内障においてはサプリメント服用による白内障の進行抑制の効果は証明されていません。
いかなる白内障もある程度進行してしまうと目薬やサプリメントで白内障による混濁を改善させることはできません。
白内障手術の効果は?
最も有効な治療法は手術(外科的治療)です。 続きを読む
網膜や視神経、脳に問題がなければ白内障による視覚障害は手術により改善できます。また、手術により網膜剥離や緑内障のリスクを減らすことができます。犬では白内障が進むと網膜剥離は3割ほど、緑内障は4割ほどの確率で発症します(犬種や眼の状態で異なります)。手術をすることで網膜剥離や緑内障の発症リスクを大きく下げることができます。
ただし白内障手術を行なっても網膜剥離や緑内障のリスクはゼロにはなりません。このため手術後も定期的に検診を行い、異常を早期に見つけることが重要となります。
当院では豊富な経験とデータから個々の眼におけるリスクを予測し、白内障手術のメリットとデメリットをご説明します。
白内障手術は人と同じ?
犬や猫の白内障手術の基本は人の白内障手術と同じすが、違う点がいくつかあります。 続きを読む
犬や猫では人と同じように超音波乳化吸引術と人工眼内レンズ挿入術を行います(状態により異なることがあります)。
人と違う点の1つめは全身麻酔が必要なことです。人では局所麻酔(目薬の麻酔や眼の周りへの麻酔薬の注射)だけで白内障手術が実施できますが、犬や猫では全身麻酔が必要になります。
2つめは入院が必要なことです。人の白内障手術の多くは日帰りでできますが、犬や猫では手術後の入院が必要となります。その理由は、全身麻酔後の回復程度を確認するためと、手術後の眼の中の炎症(眼内炎症・ぶどう膜炎)や眼圧の確認と治療が必要となるためです。犬や猫では白内障手術による手術後のぶどう膜炎が人よりも強く起こりますが、個体差も大きいため必要な治療は経過を見ながら決めていきます。また、手術後に一時的な(一過性)眼圧上昇を起こすことがあり、緑内障を含めた合併症に繋がるかどうかの確認と必要に応じた治療を行う必要があります。当院では4~5日の入院期間が標準的です。
3つめは手術後の視覚維持率です。人の白内障手術後の合併症リスクは極めて低いとされますが、犬では白内障手術後に網膜剥離や緑内障を起こすリスクがあります。予想される合併症リスクは、犬種や手術前の水晶体の状態などで異なるため検査を行わないと判明しません。
4つめは費用負担です。日本では人の白内障手術は保険適応となりますが、犬や猫では任意保険の加入や適応の有無によって費用の負担が異なります。また人と異なり全身麻酔や入院の費用もかかります。体重や眼の状態、全身状態によって費用が異なりますので、検査を実施した上で費用の概算をお伝えします。
当院にて検査を実施していない状態での白内障手術が実施できるかどうかや、その費用について、お電話でのお問い合わせにはお答えできません。
当院での診察をご希望の場合
当院は完全紹介制・完全予約制となります。当院での診察をご希望の場合は、かかりつけの動物病院にご相談の上で紹介状を当院へ頂いた上で診察予約を取る必要があります。詳しくはこちらをご覧ください。